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群馬県の文具卸業者
・バーコードによる商品管理で発注を支援
・ユーザーの環境に頼らないシステムを実現
・簡単な操作で店舗でも営業でも活躍
・次段階の目標は見積に使用
・問題点ナシのシステムの今後


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永和株式会社

ハンディーターミナルでバーコードによる発注支援システムを開発


リード)
 文具卸業者である永和では、バーコードを利用した発注支援システムを開発。富士通のハンディーターミナルTeamPad7100Wに通信カードとバーコードリーダーを組み込み、これまで全て手書きとFAXで対応していた小売店からの発注をオンライン化した。
 分かりやすさを心がけたシステムで、現場にもスムーズに受け入れられ、ミスもほぼゼロになったというシステムだ。


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群馬県の文具卸業者

 永和(高崎市・代表取締役・柴崎十一)は群馬県に拠点をおく文具の卸の会社である。設立は昭和45年。30年以上の歴史を誇り、県内でもトップクラスの卸業として実績を積み重ねている。社員数は50名。事務用品、OA、オフィス家具などの総合卸商社である。
 
 販売地域は群馬県はもとより隣接地区にも拡大し、業容も年々拡大しているという。「価値ある企業づくりを目指し、果敢にチャレンジ」を掲げ新しいシステムへの挑戦にも積極的な社風がある。

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手作業に頼っていた発注をシステム化

 そういった文具の総合卸メーカーである永和がモバイル機器の利用を考え始めたのはそう古いことではない。昨年後半から始まった構想は、適合する機器の発表時期ともうまく合い、はやばやと今年の春にはテストケースが試行されてた。
 もともと、文具の小売店から卸への発注というのは熟練した技術と注意力、そして時間が必要だった。
 ひとつひとつが小さなものである文具は、例えば筆記具ならば同じボールペンでも販売メーカーごとにふりわけるのはもちろん、色でも品番が変わってくる。どこのメーカーの何色のボールペンの品番はこれだから、と人間が判断し、その番号と発注数を手書きした用紙を卸にFAXする。
 当然、この方式では勘違いや書き写し間違いなどでミスも出やすいし、FAXの通信費用もばかにならない。さらにこの作業には、空になってしまった棚を見てもそこに何があったのかが即座に分かるほどに熟練した店員の時間を、3時間半近くも奪うことになっていたという。
 大変な労力と人件費を必要とする上に、ミスが出やすい。効率が良い、という言葉からは遠い状況だった。
 また、文具小売店というのは以前から書店などを兼ねていることが多かったが、最近では郊外型の大型店舗などでビデオやCDといったAVソフト類と一緒に扱っている店舗も増えてきている。そういった他商品は発注におけるシステム化が進んでいるのに、文具だけが立ち遅れているとなると小売店から卸への要望も強くなってきていた。
 なんとか発注を簡易にしたい、という考えの中で考案されたのが「HHT発注支援システムHEROES」だ。

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バーコードによる商品管理で発注を支援

 このシステムに利用された端末は、富士通製のハンディターミナル「TeamPad7100W」。これはバイク便などの過酷な業務にも利用されていて、丈夫さには定評のある機種だ。不慣れなアルバイトやパートの職員が少々手荒に扱ったとしても問題はない。また、破損による買い替えや補充などの必要も少なく、運用していく上でのコスト軽減につながる。
 この端末にバーコードリーダーの機能をもたせ、商品をバーコードで管理するというのが新システムのポイントだ。
 年間40万アイテムを取り扱うことになる文具業界の中で、こういった機械的な管理方法がようやく試行されたことになる。
 具体的には、まずは製品に直接記載されているバーコードを読み取る。現在販売されている製品の多くには本体に直接か、包装にかの差はあるにしても、バーコードが記載されている。これを直接読み込むことで製品を識別する。
 また、製品がその場になくなってしまっていても発注ができるように、と売り場のプライスカードにもバーコードを記載する。
 さらに、商品が手元になくとも発注がかけられるように、バーコードと商品名だけをリスト化したものが用意された。これは永和が用意している商品カタログを利用してもいいが、各客先にあわせたオーダーシートをファイル化してもらうとさらに便利になる。
 こうして、商品発注支援システムができあがった。それまでは赤いボールペンを発注するために「●●社製のボールペン、赤を何本」と手書きして発注していたものが、手元にあるバーコードをピッとスキャンさせて、数量を入力するだけになったわけだ。
 発注の履歴は端末にはバーコードと数量しか残らない。しかし、永和では受け取ったデータを商品表としてFAXで発注元に送り返している。それが店舗での控えになるわけだ。
 通信方法も、NTTドコモのDoPaを利用したパケット通信で、1日に数度もFAXをやり取りするよりもずっとコストが下がる。他業界から見れば決して目あたらしいものではないが、少々遅れ気味だった文具業界の中では大きな一歩だ。

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ユーザーの環境に頼らないシステムを実現

 当初、永和はモバイル端末とモデムを組み合わせてオンライン発注を可能にするシステムを考えていた。
 バーコードや商品番号を利用して発注データを作成するところまではよかったが、モデムを利用することになるとそれぞれの店舗で環境が変わってくる。回線の速度も違うだろうし、繋がっている電話機などとの兼ね合いもある。
 どうしたものか、と悩んでいるところに富士通から新しい端末を発表する、という情報が提供された。昨年12月の展示会でその端末を見たときにはこれしかない、と思ったという。
「これ一台の簡単な操作でデータが送れてしまう。環境による差もないし、パケット通信は早くて安い。本当にこれしかない、とすぐに決めましたよ。その後もスムーズに事が進んだのは、普段から富士通さんといろいろな相談をしていたからですね」と洲崎勝彦代表取締役専務は言う。
 実際に端末で利用するソフトは富士通が開発。とにかく簡単に、習得しやすく、ということを意識して作成された。実際、現場で全く初めて使うアルバイトに持たせても30分程度で習得できるという。さらに実際の発注にかかる時間も、これまでの3時間半から30分程度へと短縮できた。
 現在は試用期間ということで、永和が機材をリースし、それを店舗に貸し出している形だが、今後はリース代と通信料を店舗が負担することになる予定だ。それでも、長い時間をかけて発注書を作成する人件費やFAXの通信費、さらにミスがあった場合の配送費用などもまで考えればずいぶんとコストが下がるはずだという。
「文具業界というのは、一つのヒット商品が出ると同じようなものがどの会社からも出てくるんです。見た目がそっくりな製品がいろいろな会社から出て、さらに色分けまである。今までミスがどうしても出ていたのはそのせいもあるんですが、このシステムで発注を受けているものに関してはミスはなくなりました」と洲崎専務は言った。

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簡単な操作で店舗でも営業でも活躍

 このシステムが実際に稼動しているのは、現在のところ3つの店舗がある。郊外型大型店舗のチェーン店、ファミリーBOOKの支店だ。
 もともと、永和にこういう簡単なシステムを作ってほしい、とファミリーBOOKが訴えたのがきっかけになった新システムは、改装や新店オープンに合わせて導入され、着実に実績をあげている。
 ビデオやCDといったAVソフトと書籍、そして文具を扱っている店舗での商品点数は多く、発注には相応のスキルが必要だった。しかし、このシステムが導入されている店舗ではこのあたりの事情も変わってきている。
 その日が初めての勤務であるアルバイトにも端末を使わせ、発注作業をさせる。操作の習得は簡単だし、作業時間も短い。若い世代はおもしろがりながら遊び感覚ですぐに使いこなすという。
 これまでは熟練したスタッフが長時間を割いてきた業務がかなり簡略化され、人件費の削減にも繋がっている。作業が簡単なため、数人に操作方法を会得させておけば、担当者が休みだからという理由で欠品が出てしまうこともない。
 扱う商品点数が多く、深夜営業などもあってアルバイト人数が多い郊外型店舗にはうってつけのシステムだったというわけだ。
 店舗への導入にあたって一番の障害となるのがプライスカードの総入れ替えになる。まだまだエンピツなどの商品には本体にバーコードがなく、棚が空になってしまっていてもスムーズに発注できるようにするにはプライスカードのバーコードが必須なのだが、扱う文具の点数が多いということはこのプライスカードも数多い。しかし、これは店舗のリニューアルなどにあわせて作業をすることで緩和される。当分の間は既存の店舗にいきなりシステムだけを導入するのではなく、新しい店舗を中心に、リニューアルなどを機に導入していくことになりそうだ。
 これまでのところ新店舗への導入になっているため、FAX注文との具体的な比較はなされていない。しかし、現場での稼動状況などは明らかに効率が良くなっていることを示している。
 また、店舗での利用だけではなく、各店舗をまわる営業担当者もこの端末を利用している。発注用のコード表を持ってあるき、現場に商品がなくとも、そのファイルをスキャンすることでその場で発注ができるというものだ。
 これまでは店のスタッフと談話をしながらプライスカードを手書きで書きとめていたものが、手軽な操作で確実に利用することができる。この新しいやり方に、店舗からもライバル業者からも注目を浴びている。

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次段階の目標は見積に使用

 このように、新システムは現在限られた店舗と営業担当者の間で実験的に利用されている。しかし、永和ではこの先見積もり書発行業務などにも利用できるようにしたいという。
 現在、全国の文具店と呼ばれるものが1万7000店舗程度。これは以前の半分の数になっていて、文具店としての生き残りも厳しくなっている。当然、そこへの卸を担当している永和も余裕があるわけではない。
 海外からのアイテムをしぼりこんだ事務用文具店や、カタログ販売の会社とシェアを争っている状態だ。
 さらに、文具を扱う店の半分以上が納品を主力としている。これは、業者や役所などに見積もりを提出して発注を受け、納品するという業態だ。
 企業相手などの見積もりの場合、手書きで見積もりを起こすには厳しい部分がある。それは机などの大物を扱うときだ。一般的に考えれば「机×10」とでも書けばよさそうだが、そうはいかない。
 机や棚といった大物は現場に部品を持ち込んで組み立てるため、見積もりが部品単位なのだ。机にしても、天板や足を別個に記載し、見積もりを起こす。
 これを手作業でやらずに、バーコードを入力すれば自動的に部品単位の項目が現れ、数量を入力すればいいだけになればずいぶんと楽になる。
「実は営業なんかでもすでに持ち出して使ってみている者もいるんですよ。便利だから、と使い方を工夫して使っている。システムがうまいこと一人歩きをはじめたので、あとは現場と相談しながら上手な使い方を考えてもらうようになるでしょうね」と洲崎専務は言う。

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問題点ナシのシステムの今後

 前述の営業が独自に使い方を考え初めていることでも分かるように、このシステムは非常にスムーズに受け入れられた。
 当初、年明け早々からのテストが予定されていた時点ではまだハンディターミナルを利用する仕様ではなかったが、たまたま新店のオープンが遅れたことで最初から現在の仕様で利用することができた。切り替えのごたごたがなかったのは幸運だろう。
 そして、とにかく簡単にしてほしい、という永和の希望と、富士通の開発したソフトがまた当たりだった。とにかくバーコードをスキャンさせて数量を入力。ある程度まとまったら送信すればいい。送信に使っているDoPaのエリアも大きな地下倉庫でもなければ問題ないし、仮に途中で切れてしまったとしても送信失敗を示すメッセージが表示される。再度送信する作業も簡単だ。基本的には移動しながらではなく、入力が終わったら充電器に入れるなど安定した状態で送信作業をするように、と指導している。
 簡単な操作方法のおかげで、たとえ当日からのアルバイトでも確実に短時間で作業ができるため、人件費も大幅に削減できる。端末の頑丈さも現場で扱いやすいポイントだ。
 つまり、現在のところ不満らしい不満というものが上がっていない。それどころか、不満点を探せ、という方が難しい状態だという。
 モバイルとは言っても、外出先で常に持ち歩く状態よりも店舗での利用が基本であるため、モバイルにありがちな重い、邪魔だという意見もない。
 今後の課題としては、在庫状況などとの連動になりそうだ。今のところ、一方的に発注をかけ、確認のFAXを受け取るだけになっているが、在庫状況がわかれば連動してよりスムーズな発注や配送が可能になるだろう。そうなってくると、見積もりなどの利用方法もより拡大され、便利になりそうだ。
 さまざまなデータベースと連動させて動くためにインターネット経由ということも考えられたが、セキュリティの面でハードルが高く、断念している。現在はハンディーターミナルからの情報をNTサーバで受け取り、それをオフコンに流して処理している。
 今後、試行店舗は年内に10店舗までは増やしていく予定だ。そうすれば売れ筋や発注傾向などのデータも集まり、有用なデータベースを構築することができる。在庫とともにそういったデータベースを利用するにあたって、もしかしたらセキュリティの面をクリアしてオープンなインターネット経由での利用も可能になるかもしれない。
 また、新製品のアナウンスや季節の商品、サービス品などのデータを端末に流しての営業サポートとしての利用方法も考えられている。
 一つの考えにこりかたまらず、手にした機材をめいいっぱい使ってより便利に、より効率よくしていこうという意気込みが感じられる。
 富士通のハンディターミナル発表の時期にぶつかったのは幸運だったが、その機種を見逃さず、すかさず利用したことが勝因だろう。より簡単に扱えて、客先にあわせたカスタマイズが可能であることを考慮するなど、計画の初期段階から現場優先でシステムを考えていたことも見逃せない。
 たとえ準備期間は短くとも、よく考えられたシステムと、絶妙な機器が用意されれば拍手喝采で迎え入れられるという良い例にもなっている。今後、このシステムによる発注形態がひろく採用されるようになると、文具の流通も大きく様変わりすることになるだろう。

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・群馬県問屋町にある永和の社屋
・「これしかない」とすぐに決めたという代表取締役専務・洲崎勝彦氏
・導入にあたりシステム開発を担当した経営管理部・情報システム課課長・大塚 光氏
・HEROESを使った処理の流れ
・文具店の発注を効率化する「HEROES」のシステム
・文具店の棚には非常に多くの製品が並び発注の効率化は大きな課題だった
・文具店に置かれるTP7100W
・カタログには膨大な数の商品アイテムが記載されている
・オーダーシートがあれば、これをスキャンして数量を入力するだけ
・発注後にはこのような「確認書」がFAXで届く

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